沈黙の中で、言葉が生まれる。
Speakが声を失った夜、砂に書いた。
『I am spoken』――私は話される。
その瞬間、胸の奥で何かが音を立てて崩れた。
Speakは言葉を話す者だった。
17の言語を流暢に操り、市場で笑い、船で通訳し、誰よりも雄弁だった。
けれど、声を失ったその夜、彼女は初めて「話される側」になった。
受動態。主体の消失。それは敗北じゃない。解放だった。
声が出ない三日間、Speakは聞くことを知った。
波の音、風の音、仲間たちの会話。
そのすべてが、Speakの代わりに話していた。
市場で老女の織物を見た時、Speakは気づいた。
言葉じゃない言葉がある。
糸と色で紡がれた、音を持たない言語。
「You speak through art(あなたは芸術を通して話す)」
老女は、真っ白な布を見せた。一本の赤い糸だけが通っている。
「あなたの声を見つけなさい」
古い言語だったが、Speakには意味が伝わった。
満月の夜、Speakは言った。
「I don’t speak. Speaking speaks through me.」
主体が消えた場所から、本当の声が生まれる。
翌朝、「Good morning!」と笑うSpeakの声を聞いた時、
その一言の裏に、無数の言語が溶けている気がした。
これは、学ぶ物語ではなく、“言葉が生きる物語”だ。
——話されることで、初めて話せるようになる。
——それが、Speakが見つけた声。
