第5章 Do ―とにかくやる

山の麓で、少年は立ち止まった。

目の前には険しい岩場が続いている。垂直に近い壁、ゴツゴツした岩肌、落ちれば大怪我は免れない。 右に行けば迂回できそうだが、どれだけ遠回りになるか分からない。左は崖になっている。まっすぐ登るしかないのか。

考えれば考えるほど、恐怖が増していく。 失敗したらどうしよう。落ちたらどうしよう。他の道を探すべきか。でも、日が暮れてしまう。

立ちすくんでいると、岩陰に小さな人形を見つけた。 今にも駆け出しそうな姿勢で、片足を前に出している。待ちきれない、という感じの格好だった。

「……ぼくの名前を呼んで」

元気な声が弾ける。じっとしていられない、という響き。

Do

光と共に、活発そうな男の子が飛び出してきた。 赤い髪を短く刈り、そわそわと体を動かしている。立ち止まることを知らない子供のようだ。

「やっと呼んでくれた! ぼくはDo!」

彼は岩場を見上げ、考える間もなく登り始めた。

Just do it.」(とにかくやって)

振り返りもせずに言う。

「考えすぎちゃダメ。Do it now!」(今すぐやる!)

少年が躊躇していると、Doは途中まで登って降りてきた。

「怖い? 大丈夫、Look, I’ll do it first.」(見て、先にやるから)

もう一度登って見せる。手をかける場所、足を置く位置。失敗を恐れない動き。一度滑っても、すぐに別の場所を探す。

「失敗してもいいんだ。It’s okay to fail.」(失敗してもいい)「Just do it again.」(もう一度やればいい)

促されて、少年も恐る恐る岩に手をかけた。 思ったより、しっかりとした手がかりがある。でも、途中で下を見て、足がすくんだ。

「Don’t look down!」(下を見ない!)「Just do the next step!」(次の一歩だけ考えて!)

Doの声に従って、一歩、また一歩。 気づけば、岩場の半分まで登っていた。

でも、そこで手が滑った。 ずるりと落ちかけ、必死で岩にしがみつく。心臓が飛び出しそうだ。

That’s okay! Try again!」(大丈夫!もう一回!)

Doは慌てない。まるで、失敗も楽しみの一部のように。

深呼吸して、もう一度挑戦する。 今度は、さっき滑った場所を避けて、別のルートを選ぶ。

That’s it! Keep doing!」(そう!続けて!)

Do more, think less.」(考えるより動く)

Doの声が背中を押す。

ついに頂上に着いた。 視界が一気に開けた。谷、森、川、そして遠くに光る何か——海かもしれない。

See? You did it!」(ほら、できた!)

Doは嬉しそうに飛び跳ねた。

「二回目で成功! 最高だ!」

「何でもそう。Do first, worry later.」(まずやる、心配は後)「動けば、道は開ける。動かなければ、何も変わらない」

消える直前、彼は親指を立てた。

Remember! Just do it.」(忘れないで!とにかくやって)

少年は頂上に立ち、風を感じた。 確かに、やってみなければ分からなかった。 失敗も含めて、すべてが経験になった。この景色も、この達成感も、動いたから手に入れた。

山を下りながら、Doの言葉を繰り返す。 「Just do it.」 その単純な言葉が、複雑に考えすぎていた心を解放してくれた。

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