波打ち際に座り込んで、どれくらい経っただろう。
海は答えない。 ただ、波だけが確かだ。寄せて、返して、また寄せる。その繰り返しに、時間の感覚が薄れていく。
これまでの旅は、ここで終わりなのか。 仲間たちと出会い、学び、成長して。名前はまだないけれど、多くのものを手に入れた。 でも、その先は——
海の向こうには何があるのだろう。 もしかしたら、何もないのかもしれない。
砂浜に、小さな人形が埋もれていた。 片手を高く掲げ、遠くを指さすような姿で。潮に洗われ、砂に半分埋まっていたが、その手は確かに水平線を指していた。
「……わたしの名前を呼んで」
凛とした声が潮風に乗ってきた。諦めを知らない、夢見る声。
「Dream」
光が海面に反射し、まぶしいほどに輝いた。 波しぶきがプリズムのように七色に光り、その中から少女が現れた。
少年と同じくらいの年頃。青い瞳が海の色を映し、髪が潮風になびく。
彼女はすぐに空を見上げ、流れる雲を指さした。
「あの雲、船に見えない? 帆を張って、風を受けて進んでる」
少年が戸惑っていると、彼女はくるりと回って笑った。
「あっちの雲は、大きな鳥。きっと海の向こうから来たんだわ。ということは、向こうに陸地があるってこと!」
それから水平線に目を向け、うっとりとつぶやく。
「海の向こうには、きっと不思議な島がある。歌う木や、虹色の砂浜や、星の形をした果物とか。会ったことのない人たちや、見たことのない動物!」
Dreamは砂浜を歩き始めた。足跡が波に消されても、気にしない。
「Let’s dream together.」(一緒に夢を見よう)
彼女は流木を拾い上げる。
「これで船を作るの。最初は筏でもいい。でも、いつか大きな船になる。I can dream it.」(夢見ることができる)
「だって、夢は育つものだから」
二人で流木を集めた。 大きいもの、小さいもの、まっすぐなもの、曲がったもの。
Dreamは拾うたびに物語を紡ぐ。
「この木は、遠い山から川を下ってきたのね。きっと冒険が好きな木」
「これは、人魚が座る椅子になるわ。特等席よ」
「この曲がった枝は、竜の背骨みたい!」
蔦を結びながらも、彼女の想像は止まらない。
「Dreams need action, but they start in here.」(夢には行動が必要、でも始まりはここ)
自分の胸に手を当てる。
「心の中で描いて、それから手を動かすの」
何度も筏は壊れた。波にさらわれ、筏はバラバラになった。 少年の胸の奥がきゅっと痛む。こんなに頑張ったのに——
けれど、Dreamは砂を払って笑った。
「また作ればいい! Every dream needs many tries.」(どんな夢も何度も挑戦が必要)
「一回目より二回目、二回目より三回目がうまくなる。夢って、そうやって形になるの」
季節が一つ過ぎるころ、小さいけれど頑丈な筏ができあがった。 帆も付けた。Dreamが描いた雲の絵が、白い布に踊っている。
静かな朝、二人は筏を海に浮かべた。
「見て、雲が道を作ってる」
Dreamが空を指さす。確かに、雲が水平線へ続いているように見えた。まるで、空の道標のように。
「My dream is coming true.」(夢が叶いつつある)
彼女は少年の手を取った。その手は、温かく、確かだった。
「一人で見る夢は儚い。風に飛ばされちゃう。でも、誰かと見る夢は、根を張って、枝を伸ばして、いつか大きな木になる」
帆に風を受け、ゆっくりと岸を離れていく。
「Dream with me.」(一緒に夢を見て)
「新しい世界を見に行こう」
水平線に向かって、筏は進んでいく。
振り返ると、陸地が少しずつ小さくなっていく。 あの薄暗い倉庫で、名前を知らなかった少年が最初の一歩を踏み出してから—— 今、夢を共にする仲間と、果てしない海へ漕ぎ出している。
海鳥が祝福のように頭上を舞い、太陽が海に金の道を描く。
新しい冒険が、今始まった。