
道は二つに分かれていた。
倉庫を出て半日ほど歩いたところで、少年は立ち止まった。足元の草は両方の道に同じように踏まれ、どちらも使われている証拠だった。
黄ばんだ地図を広げる。線は擦れて薄く、東も西も判然としない。森への道筋らしき印はあるが、目の前の分かれ道のどちらが正しいのか。Haveがくれた地図も、完璧ではなかった。
風が吹き、草が波のように揺れる。右の道は少し上り坂で、木々の影が濃い。左の道は平坦だが、遠くで曲がっていて先が見えない。
迷っているうちに日が傾き始めた。このまま立ち尽くしていても、何も変わらない。でも、間違った道を選べば、森にたどり着けないかもしれない。
道標の根元に、小さな人形が横たわっていた。 片手を前に伸ばし、何かを指し示すような格好で固まっている。苔むした石の間に埋もれるように置かれ、長い時間ここにいたことが分かる。
「……ぼくの名前を呼んで」
声が胸に響く。少年は静かに答えた。
「Get」
光が走り、少年と同じくらいの男の子が立ち上がった。 短い黒髪、きりっとした目。すぐに地図を覗き込み、それから太陽を見上げた。
「どこへ行きたいの?」
無駄のない、まっすぐな声だった。
少年は地図の森を指さした。
Getは頷き、影の向きを確かめ、風の流れを読んだ。それから迷いなく東の道を指さす。
「この道。間違いない」
彼は一歩踏み出し、振り返った。
「Get to the forest, then get some food.」(森に着いて、それから食べ物を手に入れる)
Getの言葉は短いが、不思議な確信に満ちていた。
「歩くことは、手に入れること。道も、場所も、経験も、全部。一歩ごとに、何かを得ている」
少年が頷くと、Getは小さく微笑んだ。
「道に迷ったら、また選べばいい。Get another way.」(別の道を手に入れる)「でも今は、この道。You’ll get there.」(きっと着くよ)
光と共に消える直前、もう一度東を指さした。その指の先に、確かに森の気配を感じた。
少年は革袋を背負い直し、東の道へ足を向けた。 一歩、また一歩。 歩くたびに、森が近づいてくる。夕暮れ時、木々の匂いが風に混じり始めた。Getが示した道は、正しかった。
森の入り口に立ったとき、少年は振り返った。 分かれ道はもう見えないが、ここまでの道のりが、確かに自分のものになっている。
Get——手に入れること。 それは物だけでなく、道も、場所も、すべて。