不在の存在論 – Leaveの物語(18歳以上向け)

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序 痕跡

船が、ない。 仲間が、いない。 いや、最初から いなかったのかもしれない。

Leaveは砂浜に立っていた。 灰色の髪が潮風に揺れる。 足跡は既に波に消されて、 まるで最初から存在しなかったかのように。

I have always been leaving(おれはずっと去り続けていた)」

過去完了進行形。 始まりも終わりもない、永遠の離別。

声は虚空に響き、 そして虚空に吸い込まれていく。

Or have I never left?(それとも、一度も去っていないのか?)」

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第一楽章 消失点

港町。 見覚えがある。 いや、全ての港町は同じ顔をしている。

市場で老婆が言った。 「あんた、また来たのかい」

I’ve never been here(来たことはない)」

「嘘おっしゃい。昨日も、一昨日も、 百年前も、あんたはここにいた」

老婆の目は白く濁っているが、 何かを見透かしているようだった。

You leave, but never leave(去るけど、去らない)」 「You’re the eternal leaver(永遠に去る者)」

Leave。 名前が本質を規定するのか。 本質が名前を呼ぶのか。

I leave, therefore…(去る、ゆえに…)」

言葉が完成しない。 ゆえに、何?

第二楽章 重ね合わせ

船の甲板。 いつの間にか、戻っていた。

いや、leave していなかったのかもしれない。

Blankが言った。 「Leave、君はずっとここにいたよ」

No, I left yesterday(いや、昨日去った)」

「君は昨日もここにいた」

記憶が液体のように混ざり合う。 去った記憶。 留まった記憶。 どちらが真実?

Maybe I’m always leaving and staying(たぶん、常に去りつつ留まっている)」

シュレーディンガーのLeave。 観測されるまで、去った状態と留まった状態が重なり合う。

第三楽章 他者という鏡

Nameが近づいてきた。 金色の髪が夕陽に透ける。

Leave、あなたは誰?」

I am the one who leaves(去る者だ)」

「でも、去らない時のあなたは?」

沈黙。

去らない時のLeaveは、Leaveなのか? 動詞が存在を規定する時、 動詞を実行しない瞬間、 存在は消滅するのか?

I am the possibility of leaving(去る可能性そのものだ)」

Even when staying?(留まっている時も?)」

Especially when staying(特に留まっている時に)」

留まることで、去る可能性は最大化される。 去ってしまえば、もう去れない。

第四楽章 時間の外へ

夢か現実か分からない夜。

Leaveは自分が去る瞬間を、外から見ていた。 甲板に立つ自分。 別れを告げる自分。 小舟に乗り込む自分。

I’m watching myself leave(自分が去るのを見ている)」

時間の外に立つと、 全ての離別が同時に存在する。

初めて親元を離れた日。 初めて友を失った日。 初めて自分自身から離れた日。

全てが今、ここに。

Time doesn’t leave(時間は去らない)」 「We leave through time(我々が時間を通じて去る)」

第五楽章 言葉の限界

Haveが聞いた。 「Leave、君の物語を聞かせて」

My story?(物語?)」

Yes, your story of leaving(君の去る物語)」

Leaveは笑った。乾いた笑い。

Every word is a leaving(すべての言葉が離別だ)」

話し始めた瞬間、 言葉は口から離れ、 意味は話者から離れ、 理解は言葉から離れる。

I cannot tell without leaving(去らずに語ることはできない)」 「The story leaves me as I tell it(語るそばから物語は去っていく)」

終楽章 不在の充満

朝。 あるいは永遠。

Leaveは存在していた。 あるいは存在していなかった。

船の甲板は空っぽで、 しかしLeaveの不在が充満していた。

仲間たちは知っている。 Leaveは去った。 Leaveはここにいる。 両方が真実。

He left us everything(彼は全てを残していった)」 「By taking nothing(何も持たずに)」

貝殻がある。 昨日置かれたもの。 百年前から在るもの。 これから置かれるもの。

全てが同時に真。

Leave。 不在によって最も強く存在する者。 去ることで永遠に留まる者。

I leave

声が響く。 誰の声か分からない。 全員の声かもしれない。 誰の声でもないかもしれない。

ただ、動詞だけが残る。 Leave。 純粋な離別の概念として。

深淵 

Leaveという動詞の形而上学

存在は名詞ではない。 動詞である。

Leaveは究極の動詞的存在。 行為することでのみ存在し、 行為をやめても行為の可能性として存在し続ける。

去ることは最も純粋な実存の証明。 なぜなら、去るためには、 まず「在る」必要があるから。

しかし、本当に?

去ったことを誰が証明する? 残された者? 去った本人?

不在の存在論は、 西洋哲学の盲点を突く。

在ることへの執着が、 不在の豊穣さを見えなくする。

Leaveは教える。 不在もまた、存在の一様態であることを。

いや、最も純粋な存在の形かもしれない。

I leave, therefore you are」 (おれが去る、ゆえに君が在る)

他者の存在を際立たせるための、 究極の愛としての離別。

それがLeave

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