
◆創造の原初を探求し、作ることと作られることの境界が溶けていく、存在論的冒険。
0. 無
工房は静寂に包まれていた。
Makeの手が、虚空で何かを掴もうとして、また離れる。 掴む。離れる。 その反復の中で、彼女は「作る」という行為の原初を探していた。
何もないところから、何かを。 その瞬間の、最初の衝動は何か。
言いかけて、止まる。 makeの後に続くべき目的語が、見つからない。
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1. 痕跡
古い木箱の中から、一枚の設計図が出てきた。 いや、設計図と呼ぶには、あまりにも不完全だ。 線が途中で消え、寸法は書きかけ、完成図は空白。
これは誰の?
記憶を辿る。 そして気づく。これは自分が最初に書いた設計図だ。 何を作ろうとしていたのか、もう思い出せない。
「未完成の設計図は、失敗か、それとも」
Needが入ってきた。彼は設計図を一瞥して言った。 「これ、完成してるよ」
「え?」
「未完成であることが、この設計図の完成形なんじゃない?」
理性的な彼らしくない、詩的な指摘。 しかしMakeは、その言葉の中に真理を感じた。
「Then I’ll make incompleteness(なら、不完全さを作ろう)」
2. 反転
深夜。 Makeは破壊を始めた。
これまで作ってきた作品を、一つずつ分解していく。 ネジを外し、接着を剥がし、組織を解体する。
「何してるの?」
振り返ると、Wantが立っていた。真夜中だというのに。
「作ることの逆を、やってみたくなった」
「壊すこと?」
「違う。un-makeすること」
分解された部品たちは、新しい可能性を帯び始めていた。 組み立てられる前の、純粋な潜在性。 歯車は時計にもオルゴールにもなれる。 レンズは望遠鏡にも顕微鏡にもなれる。
「I unmake to make possibilities(可能性を作るために、解体する)」
Wantは不思議そうに、でも興味深そうに、その光景を見ていた。
3. 境界
朝。 海と空の境界が曖昧な、霧の朝。
Makeは甲板で、奇妙なオブジェを作っていた。 それは道具とも芸術品とも、どちらとも言えない何か。
Hopeが近づいてきた。 「それは何?」
「分からない」
「分からないものを作ってるの?」
「I make without knowing what I make(何を作るか知らずに作る)」
手が動く。 意図を持たず、目的を定めず、ただ素材と対話しながら。
これは創造か、それとも素材の側からの要請か。 作者と素材の境界が溶けていく。
「面白いね」Hopeが微笑んだ。「希望も、そういうものかもしれない。何になるか分からないけど、とりあえず持ち続ける」
4. 循環
Seeが持ってきたのは、壊れた鏡の破片だった。
「これ、わたしが最初に見つけたもの。でも、何も映らなくなった」
Makeは破片を受け取った。 確かに、鏡面は曇り、反射を失っている。
しかし。
「これは壊れてない。変化しただけ」
Makeは破片を光にかざした。 曇った表面が、複雑な光の屈折を生み出している。
「鏡は、映すことをやめて、光を作ることを選んだ」
「I make new meanings from old functions(古い機能から新しい意味を作る)」
Seeは静かに頷いた。 「わたしも、見ることの意味を、もっと広く捉えてみる」
破片は、二人の間で、新しい役割を得た。
5. 沈黙
夕方。 工房に、誰もいない。
Makeは、何も作らずに座っていた。 工具は手元にある。素材もある。 でも、動かない。
これも創造の一形態。 作らないことを作る。 沈黙を作る。 間を作る。
「I make nothing, and nothing makes me(無を作り、無がわたしを作る)」
その時、ドアが開いた。 Doが顔を出す。
「Make、大丈夫?」
「うん。今、一番大切なものを作ってる」
「何を?」
「作らない時間を」
Doは少し考えて、静かに隣に座った。 二人で、作らない時間を共有する。
それは、これまでで最も豊かな創造の瞬間だった。
∞. 始原
夜明け前。 最も暗い時間。
Makeは一本の釘を見つめていた。 最初に使った釘。最初の創造の、最初の一打ちを刻んだ釘。
錆びて、曲がって、もう釘としては使えない。 でも、これがすべての始まり。
「Will you make me again?(わたしをもう一度作ってくれる?)」
釘に問いかける。 いや、違う。 釘がわたしに問いかけている。
創造者と被創造物の関係が、逆転する瞬間。
「I was made to make(作るために作られた)」
そして気づく。 自分もまた、誰かに、何かに、作られた存在なのだと。
夜が明ける。 新しい一日が始まる。 創造は続く。 終わりなく、始まりなく。
釘を握りしめ、Makeは立ち上がった。
今日も、何かを作る。 あるいは、作らない。 その選択自体が、創造なのだから。
存在することは、作ることであり、作られることである。その永遠の循環の中で、我々は生きている。