釘と無限 – Makeの物語(18歳以上)

◆創造の原初を探求し、作ることと作られることの境界が溶けていく、存在論的冒険。

目次

0. 無

工房は静寂に包まれていた。

Makeの手が、虚空で何かを掴もうとして、また離れる。 掴む。離れる。 その反復の中で、彼女は「作る」という行為の原初を探していた。

何もないところから、何かを。 その瞬間の、最初の衝動は何か。

I make—」

言いかけて、止まる。 makeの後に続くべき目的語が、見つからない。

このラインより上のエリアが無料で表示されます。

1. 痕跡

古い木箱の中から、一枚の設計図が出てきた。 いや、設計図と呼ぶには、あまりにも不完全だ。 線が途中で消え、寸法は書きかけ、完成図は空白。

これは誰の?

記憶を辿る。 そして気づく。これは自分が最初に書いた設計図だ。 何を作ろうとしていたのか、もう思い出せない。

「未完成の設計図は、失敗か、それとも」

Needが入ってきた。彼は設計図を一瞥して言った。 「これ、完成してるよ」

「え?」

「未完成であることが、この設計図の完成形なんじゃない?」

理性的な彼らしくない、詩的な指摘。 しかしMakeは、その言葉の中に真理を感じた。

Then I’ll make incompleteness(なら、不完全さを作ろう)」

2. 反転

深夜。 Makeは破壊を始めた。

これまで作ってきた作品を、一つずつ分解していく。 ネジを外し、接着を剥がし、組織を解体する。

「何してるの?」

振り返ると、Wantが立っていた。真夜中だというのに。

「作ることの逆を、やってみたくなった」

「壊すこと?」

「違う。un-makeすること」

分解された部品たちは、新しい可能性を帯び始めていた。 組み立てられる前の、純粋な潜在性。 歯車は時計にもオルゴールにもなれる。 レンズは望遠鏡にも顕微鏡にもなれる。

I unmake to make possibilities(可能性を作るために、解体する)」

Wantは不思議そうに、でも興味深そうに、その光景を見ていた。

3. 境界

朝。 海と空の境界が曖昧な、霧の朝。

Makeは甲板で、奇妙なオブジェを作っていた。 それは道具とも芸術品とも、どちらとも言えない何か。

Hopeが近づいてきた。 「それは何?」

「分からない」

「分からないものを作ってるの?」

I make without knowing what I make(何を作るか知らずに作る)」

手が動く。 意図を持たず、目的を定めず、ただ素材と対話しながら。

これは創造か、それとも素材の側からの要請か。 作者と素材の境界が溶けていく。

「面白いね」Hopeが微笑んだ。「希望も、そういうものかもしれない。何になるか分からないけど、とりあえず持ち続ける」

4. 循環

Seeが持ってきたのは、壊れた鏡の破片だった。

「これ、わたしが最初に見つけたもの。でも、何も映らなくなった」

Makeは破片を受け取った。 確かに、鏡面は曇り、反射を失っている。

しかし。

「これは壊れてない。変化しただけ」

Makeは破片を光にかざした。 曇った表面が、複雑な光の屈折を生み出している。

「鏡は、映すことをやめて、光を作ることを選んだ」

I make new meanings from old functions(古い機能から新しい意味を作る)」

Seeは静かに頷いた。 「わたしも、見ることの意味を、もっと広く捉えてみる」

破片は、二人の間で、新しい役割を得た。

5. 沈黙

夕方。 工房に、誰もいない。

Makeは、何も作らずに座っていた。 工具は手元にある。素材もある。 でも、動かない。

これも創造の一形態。 作らないことを作る。 沈黙を作る。 間を作る。

I make nothing, and nothing makes me(無を作り、無がわたしを作る)」

その時、ドアが開いた。 Doが顔を出す。

Make、大丈夫?」

「うん。今、一番大切なものを作ってる」

「何を?」

「作らない時間を」

Doは少し考えて、静かに隣に座った。 二人で、作らない時間を共有する。

それは、これまでで最も豊かな創造の瞬間だった。

∞. 始原

夜明け前。 最も暗い時間。

Makeは一本の釘を見つめていた。 最初に使った釘。最初の創造の、最初の一打ちを刻んだ釘。

錆びて、曲がって、もう釘としては使えない。 でも、これがすべての始まり。

Will you make me again?(わたしをもう一度作ってくれる?)」

釘に問いかける。 いや、違う。 釘がわたしに問いかけている。

創造者と被創造物の関係が、逆転する瞬間。

I was made to make(作るために作られた)」

そして気づく。 自分もまた、誰かに、何かに、作られた存在なのだと。

夜が明ける。 新しい一日が始まる。 創造は続く。 終わりなく、始まりなく。

釘を握りしめ、Makeは立ち上がった。

今日も、何かを作る。 あるいは、作らない。 その選択自体が、創造なのだから。

存在することは、作ることであり、作られることである。その永遠の循環の中で、我々は生きている。

目次